風船

長い年月で溜まった 色んな物のせいで最近は飛べなくなった
脳と言う名の袋に貯めこんだ経験は宝石のように貴重で同時に重い
どこか別の場所に移動しようとする時 
その重みの分 僕のケツは重くなり現状から離れられなくなる
最近は無意味に空を見上げる日が増えた気がする
時折自分より若い風船が太陽を横切るのを目にする
それを見送りながら彼らは一体どこまで飛んでいくのかと想像する
彼らもいつかは自分のように若い頃抱いた期待が萎んで
やがては飛べなくなってしまうのだろうか?
それともそんな僕の憂いをよそに
風に乗りそのまま飛び続けるのだろうか?
そのどちらにせよ 今の僕にとっては酷なのかもしれない
もし彼らが僕のように飛べなくなってしまったとしたら
僕の石のように凝り固まった頭は
年月が経てばやがては誰でもそうなる
自然の摂理ということになる
逆にもし彼らがずっと僕の頭上を飛び続けるのだとしたら
きっと彼らの目に僕は負け犬か死者のように見えることだろう
もし後者だとすれば僕は下から必死に歯でも見せて
激しい嫉妬の表情を少なくとも遠目からは笑顔に見えるように振る舞い
「僕は駄目だったけど頑張ってね。」とでも若い風船に声をかけるのだろうか?
少しでもいい感じで落ちた風船らしく振る舞うために
その時の僕の表情はきっと嫉妬に歪んだ顔より惨めな表情をしていることだろう
何度想像してもそれは惨めだった
できることなら そんな萎れたイメージなど持たずに
海のように青い空で浮かんでいたい
誰の目も気にせず自分だけの空を持っていたかった
それこそが風船に生まれた者の醍醐味ではないか

ところで風船が飛ぶにはヘリウムガスがいる
もしくは空気より軽い何かで自分を満たす必要がある
僕らが日常で抱える問題を少しでも軽くすものがあるとすればそれは期待だ
週末の楽しみが平日の苦労を軽くするように
もしくはダイエット中の女の子がダイエット後の自分の体を思い描いて
減量に励むように
僕らは期待を抱き次の場所へと飛んでいく

きっと僕が飛べなくなったのはマメに空気入れすることを怠ったからだ
日常の生活に追われ何かに期待することを忘れてしまっていたからだ
重くなった頭にチューブを突き刺して期待を注入すれば
もしかしたら今すぐにでも飛べるのかもしれない
そして もし僕が再び空を飛んだとしたら
経験がある分若い頃の自分よりずっと賢く広い空を横断することができるだろう

風船はヘリウムガスを注入して飛んでいく
僕らは期待を胸に飛んでいく
もしも飛んでいる間に空気が漏れて地上に落ちてしまった時は
その場で休んでゆっくりと気体/期待を注げばいい












自由詩 風船 Copyright  2020-08-11 10:44:23
notebook Home 戻る  過去 未来