血栓(1)
まーつん

1

晩夏の夜、郊外。
棟を連ねる家々の窓明かりが
街路に光を落としている

そこを、通り過ぎる人影が一つ
彼はうつむきながら
こんなことを考えている

…人は互いに繋がりあって、
家族という細胞を作る。

それらの細胞が互いに連なって、
社会という生き物を作る

今、家族を作らず
一人きりのまま大人になった自分は
言うなれば、社会という生き物の血管を旅する
小さな異物だ。

「社会」、
その大きな生き物の腸は
俺を消化できない、
溶けることを拒む、この硬すぎる心を

無理に僕を取り込もうとすれば
腹を壊すだろう、何故なら俺という人間は
何処か、腐っているから

俺は
細胞になれなかった分子
自分の心を細かく噛み砕いて
作り直すことができず
社会の一部になれないままに
時の回廊を転がり続ける、頑迷な小石

やがて血栓となり
この社会という生き物の血管を
詰まらせるだけ


自由詩 血栓(1) Copyright まーつん 2020-08-10 09:58:28
notebook Home 戻る  過去 未来