仕掛け花火のような
こたきひろし

仕掛け花火が好きだった

真夏の一夜
打ち上げられて 一瞬 大輪の花を咲かせて
儚く消えて仕舞うような花火よりも

その夜
私は幾つだったんだろう

子供だった

その夜
私は何処にいたんだろう

見も知らない所へ
初めての土地へ連れて来られた

川原だった
水の匂いと水の音がしていた
筈なのに

花火見物の沢山の人の歓声に飲み込まれていた
筈なのに

記憶は朧気になっていた

その夜
私は誰かに肩車されていた

火花が滝みたいに川に向かって落ちる様を
見たくて
肩車をせがんだのだ

その夜
私は肩車をされた

果たしてその人が
実の父親なのか
或いは
父親以外なのか
思いだそうとして
叶わないのはなぜ


そこに
母親の記憶はなかった

父親の死後に
私はある事実を知る事になる

父親は再婚だった
最初の人は
最初の子供を死産した

戦前の医療は遅れていた
母親も間もなく亡くなってしまった
それは
まるごと
儚く消えてしまった花火みたいだった

その後
父親は再婚した
それが私の母親だった

もし
最初の結婚が破綻しなければ
私はこの世界に存在しない

それは仕掛けられた花火だったかもしれない
私は火花のように溢れ落ちたのかもしれない




自由詩 仕掛け花火のような Copyright こたきひろし 2020-08-09 14:30:50
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