イザベラのこと 4
ジム・プリマス

 新学期が始まる前の部屋替えが始まった直後に、気が付くことになったのだけど、灯台元暗しの言葉どうりで、朝食の時、食堂でいつも会っていたイザベラが、何日も食堂に現れず、ずっと、気を揉んでいた僕だったけど、なんという偶然だろう、その彼女の居場所が、五階にある僕の部屋の、隣の部屋だったのだ。それは、その時の僕にとっては運命的な附合に思えた。
 それに気が付いた時も運命的だった。僕が部屋から出てドアを閉めると、偶然、隣の部屋のドアからイザベラが出て来て、二人とも部屋が隣同士だということに、その時、初めて気が付いたのだった。驚いたけど二人とも喜んで、お互いの手を取って、両手で握手したのを今でも覚えている。
 イザベラと出会前う前に、僕は10年来、片思いしていた女の子に告白しようとして、見事に玉砕し、失恋して頭が真っ白けの状態だった。だから大学の寮の食堂でイザベラからとても親切にしてもらって、その親切がよけいに精神に沁みた。僕はその時、彼女に本当に癒されたのだった。
 その頃の僕は、とにかく、特に女性に関することでは、踏んだり蹴ったりの連続で、精神はボロボロの傷だらけの上、ジャガイモのように歪になり、凍てついてカチカチに固まっていて、自分でもそんな精神を持て余していた。
 特に女性の前に出ると、少しも素直になれず、特に、それが自分にとって魅力のある女性の場合には、わざと聞こえるように、酷い言葉を吐いたりするような状態だった。完全に精神がひねくれていたのだった。
 イザベラと出会って、会うたびに、彼女から上目遣いに、真っすぐに見つめられて、僕はドキドキしながら、同時に、失恋の喪失感が少しづつ後退し、自分の凍てついた精神が少しづつ溶けて、その傷が癒されてゆくのを感じていた。



散文(批評随筆小説等) イザベラのこと 4 Copyright ジム・プリマス 2020-08-08 13:57:38
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