ブルース・ブラザース、日本へゆく第一章 13
ジム・プリマス

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 さて、ジェイクが消えた後も、しばらくのあいだはご機嫌に初夏のシカゴの街を車でとばしていたエルウッドだけど、いつの間にか、制限速度を守って走っている自分に気がついて、思わず「俺も歳とったな」と独り言を言って、苦笑いした。刑務所に収監されるとき、その手続きにつきっきりだった、今は実の弟同然のキャブから、涙ながらに交通道徳を守るように説教されたことを思い出したからだ。
 ルイジアナでの一連のドタバタの間、職務を放棄してブルース・ブラザースのメンバーとして行動を共にしていたキャブだったが、彼の行動に関する州による査問は、一時的なストレスによる心身喪失によるものとみなされて、三ヶ月、病気療養のための休暇をとるということでかたがついた。
 精神科医のカウンセリングを受けるという条件つきだったが、その処分が随分と寛大なもので済んだのは、ルイジアナの魔女にねずみに変身させられた田舎テロリストとロシア・マフィアの面々がどういうわけか、真昼間にシカゴのイリノイ州警察の本部のまん前にシャツにトランクスだけの格好で、ロープで縛り上げられて、放り出されていて、彼らの逮捕が署長であるキャブの手柄だとみなされたからだ。まったく神の御心は謎だ。
 そういうわけで今でもキャブはイリノイ州警察の署長として働いている。ただし以前の彼とは趣味が大きく変わったのは事実だ。どういうことかというと、私服は常にブルース・ハットにブルース・グラス、黒のスーツの上下に黒のタイ。聞いている音楽は常にブルースと、R&Bとかソウルとかゴスペルなんかのクラッシックなブラック・ミュージックいうことなんだけど、エルウッドに言わせれば「俺たちの兄弟なんだから当然だ。」ということらしい。
 バスターの里親さがしから、自分の就職の世話まで、キャブは本当によくしてくれた。硬いところはあるんだけど、キャブはカーティスに似て心根は優しく、面倒見のよいところがある。まったくいい弟をもったもんだななどど、ぼんやり考え事をしていたエルウッドがふと気がつくと、レガシィのナビゲーション・システムのカバーは勝手にひらいてモニターに金色の文字が表示されている。そこにはこう記されていた。
「友に別れを告げて、旅支度をせよ。神」


散文(批評随筆小説等) ブルース・ブラザース、日本へゆく第一章 13 Copyright ジム・プリマス 2020-08-05 08:05:04縦
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