ブルース・ブラザース、日本へゆく第一章 12
ジム・プリマス

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 次の瞬間、エルウッドはクラッチを踏んでギアをバックに入れて、アクセルを踏み込んでいた。普通のアメ車ならタイヤが空回りして、白い煙を吐き出してから、後退し始めるところだが、ツイーとスムーズに走り出すもんだから、エルウッドは慌ててブレーキーを踏んづけていた。そうしないと、もう少しで路地の端に車をぶつけるところだ。
「これが4WDのグリップか、なるほど。」と独り言を言いながら、エルウッドはハンドルを切り、ギアをローに入れてまたアクセルを底につくまで踏み込む。またまたタイヤが軋む音がするのかと思いきや、フワーっと軽い感じで、車は滑り出すように前進し始める。路地を抜けて、通りに出て、すばやくシフトアップしながらアクセルを踏み込むと、速度は、あっという間に百マイルを軽く超え、身体は加速のためのGでシートに押し付けられるんだけど、恐怖感というよりは快感を感じながらエルウッドは「ヒーン」というターボーの回転音に酔いしれていた。街で車を飛ばすのは久しぶりだった。
 タイトなコーナーを回って急ハンドルを切っても、レガシィはタイヤを軋ませることもなく、スイーっとスムーズにコーナーを回る。
「いい、こりゃいいぜ、兄貴。ニュー・ブルース・モビール。気に入ったぜ。さすが神が仕立てた車だよ。」
 全開のウインドーから流れ込んでくる、シカゴの初夏の風に帽子を飛ばされないように、手でおさえながらジェイクは答えた。
「相変わらずだなエルウッド、お前の運転は。慣れてなきゃ舌を噛み切るところだぜ。」そう言いながらもジェイクはニヤニヤ笑っていて、機嫌が悪いわけではないみたいだ。
「さてと、忘れないうちにコイツを渡しておくぜ。」そう言いながら、ジェイクは背広の内側に手を突っ込むと、金色のDVDケースを取り出してエルウッドに見せた。
「こいつはな、神が創ったナビゲーションシステム(英語版)だ。いいか、こいつをこのレガシィにセットして、このナビの指示に従ってゆけば、今回のミッションは必ず成功する。ただな、その指示がどんなにむちゃくちゃなものだったとしても、そいつを疑っちゃいけねえ。それがこのミッションの唯、一つのルールだ。」
 そう言いながらジェイクはダッシュボードを開いて、金色のDVDケースを開いて、その中の金色のディスクをDVDドライブにセットした。
「エルウッド、今度の日本ツアー、せいぜい楽しんでくれ。悪いが、この葉巻はお前にツケておくぜ。それじゃあな兄弟、また来るぜ。」ジェイクがそう言った途端、また金色の閃光と共に「ボン」と白煙が上がったとおもったら、ジェイクの姿はかき消すように消え、空になった金色のDVDケースだけが、口が開いたまま、助手席の上に転がっていた。




散文(批評随筆小説等) ブルース・ブラザース、日本へゆく第一章 12 Copyright ジム・プリマス 2020-08-04 09:20:41
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