不等式
星 ゆり


絵は完成したと言えば
美しかっただけの悪意にも
たましいと宣言しますか
食事が用意できたと言えば
温めなおした事実にも
思い出せない祈りを判別しますか
花の気を知らずにいるお前の
覚えておきたかった由来は
空耳が笑い始める頃に
ひとりでずっと暮らしている


みちなりの結びつきに、さらわれる言葉を
数えては足し、数えては足し
名前というものを繰り返さずとも
もう数十年、深く生活できている


そこに金を出さなくてもいいと頷いたから
そこに花を添えなくてもいいと笑ったから


新調したまぼろしに囲まれて
目が合うものすべてに色が宿っているから
どこもかしこも腹が減って仕方がないよ
耳にしたことを言うようだが
完食したことだけが分かる皿がもうあったとする
額縁に収めれば血ばかり走っている話だよ


金なんかなくていいから
まず、目の前のものを落札したら聞いてくれ
お前の名前は本当にみんな知っているのかと





自由詩 不等式 Copyright 星 ゆり 2020-08-02 00:55:46
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