色彩・印象
滝本政博

オルガンを弾くその滑らかな指の動き
室内は少し暗く
表情までは分らない
窓の外は遠くまで向日葵の畑だ
種子の周りを囲む舌状の花びら
黄色の群れ咲く中に
遠く稲妻が走る
銀塩のネガの上で反転する色
青い残像が定着する
オルガンの音が止まり
雨が降りだした

     *

ときおりむしょうに
絵画が見たいとおもうときがある
そんなときは
音楽でもなく
文学でもなく
絵画でなければならないのだ
その線であり色であるものに
掴まれて揺さぶられたいのだ
わたしの細胞が絵画を欲しているのだ
そんな時わたしは美術館にいる

     *

楽園にいた
鳥の囀りで目を覚ました
晴れわたった空
咲き乱れる花々
瑞々しい樹々の間を小川が流れる
ここは天使が舞い降りた場所
彼らが笑い飛び跳ねたところだ
わたしたちは歩き出した
互いの手を握りながら
蝶の姿で光が纏わりついた
色彩の階段を昇ってゆこう
なんの不安もない一日が
いま始まった

     *

汽車がゆく
フニクリ・フニクラ
手を振ってくれよ 陽気な登山列車だ
標高が高いのでくらくら
印象派の光が満ちて
景色も僕らも粒状の色彩に還元されてしまう
肉付きの良いあなたが
乳房を見せてくれる
セーターを捲って


自由詩 色彩・印象 Copyright 滝本政博 2020-08-01 19:31:33縦
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