ブルース・ブラザース、日本へゆく第一章 9
ジム・プリマス

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 エルウッドはなんだか不思議な気持ちだった。よく知っているつもりのレイが生前、日本人とかかわりがあり、それがまだはっきりとしたわけではないけれど、ブルースと関係があり、自分もそれに首を突っ込むことになりそうなこと。そしてまた、顔見知りで、よく知っているつもりのエドが日本に住んでいたことなんて、今日、初めて聞いた。
 食後のコーヒーをすすりながら、エルウッドはなんだか日本という国に対して、いままで感じたことのない特別な興味をいだいていたし、なんだが自分が日本に行くことになることについて、ほとんど確信といってもいい予感をつよく感じていた。
 エルウッドが席を立ったとき、もうシカゴ・エキスプレスのカウンターはブランチ目当ての客でごったがえしていた。
 勘定をすませて、店を出たエルウッドは鉄道の高架下の路地を迷うことなく歩いてゆく、子供の頃から歩きなれた路だ。路地を二ブロックほど進むと、お目当ての場所に着いた。
 しばらくは懐かしい想いに浸っていたエルウッドだけど、とにかく思い切ってトランスが収められている倉庫の鍵の壊れたドアを開けてみることにした。
バタンとドアを開けると、あったね。赤外線燈に照らされて、黒光りしているピカピカの新車がドーンとそこに置いてあった。
 エルウッドはサングラスを外して、目をごしごし擦ってみたり、自分のほっぺたを自分で抓ってみたりしていたけど、目の錯覚じゃないし、ほっぺたは痛い。しばらく放心していたエルウッドだけど、次の瞬間、叫んでいた。
「ウオー、グレイト、ワンダフォー、アメイジング。」思わず小躍りした後で、彼はひざまづいて、神への祈りをささげたね。
 さて、立ち上がって車を後ろから観察する。どうやらステーション・ワゴンらしい。いくつもの星をかたどったエンブレム。そしてLEGACYの文字。
「レガシィ? 」自動車狂のエルウッドの頭には、色々な車のスペックが記憶されているが、それでもなかなかレガシィという名前が出てこない。それでも彼の頭の片隅にスバル重工という日本の企業の名前が記憶されていたことは特筆すべきことだろう。
「スバル重工製レガシィ。水平対抗ボクサーエンジン四気筒、2.0リッターDOHC16バルブ、ツイン・スクロールターボ、206馬力、コンピューター制御によるフルタイム4WD。」スペックだけがつらつらと口に出たけど、後は航空機のメーカーが作った日本の車だったことぐらいしか、覚えていない。


散文(批評随筆小説等) ブルース・ブラザース、日本へゆく第一章 9 Copyright ジム・プリマス 2020-08-01 00:43:41
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