ブルース・ブラザース、日本へゆく第一章 8
ジム・プリマス


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 さて、いつも以上にのんびりと時間をかけて路地を抜けて、シカゴ・エキスプレスの前にたどり着くと、ちょうど九時の開店時間だった。開店するまで仏頂面して待たされるはエルウッドも嫌だったから、機嫌も良くなるというものだ。
エルウッドがドアを開けると、今日は早番のデーゥィがカウンターを拭き掃除しているところだった。
「やあ、デーゥィ、おはよう。朝から感心だね。」上機嫌でエルウッドがデーゥィに声をか
けると興味深深という感じで、彼女はエルウッドに話しかけてきた。
「おはよう。ご機嫌ねエルウッド。昨日といい、今日といい。何かいいことでもあったの?」ちょっと困惑しながらエルウッドは答える。
「いいことなんだか、わるいことなんだか、まだ良く分からないんだよ。まるで、雲を掴むような話でね。でも、もしかしたら本当に日本にいくことになるかも知れない。今日はそのことを確かめようと思ってね。食事をすませてからね。」
なんだか良く分からないという顔をして、デーゥィは「ふーん。」と答えた。彼女がそんな顔をするのも無理はない。エルウッドだって自分がどんな状況に置かれているのか、まだ良くわかっていなかったのだから。
 さて、コーヒーに、ドライトーストに、ベーコンエッグ、グリーンサラダのハーフをオーダーして、エルウッドが席にすわると、忙しげにフライパンを振り回したり、キッチンナイフで野菜を切ったりしながら、エドが話しかけてきた。
「エルウッド、日本にいくのかい。あそこはなかなかいい国だぜ。とにかく食いモノがうまくてな。特に魚がうまい。魚があんなにうまいものだって日本に行って、初めて知ったぜ、俺は海兵隊にいてな、日本の横須賀に何年か住んでいたことがある。日本のビールがな、また味が濃くてうまいんだ。」
 懐かしそうにエドが話すのを聞いていてエルウッドは「へーえ。」って答える。
「それじゃ、土産は日本のビールでいいかい。」って調子にのってエルウッドが答えると、エドは珍しく顔を上げて、仕事していた手を止めて、まじまじとエルウッドの顔を見つめると「ああ、本当に、本当に、頼むぜ。本当に日本にいくのならな。最近、夢にみるんだ。俺も歳かね。」と答えた。なんだかブルース・スピリットなんて日本にあるわけないといった時の、レイの悲しげな顔を思い出しながらエルウッドは「ああ、任せてくれ」と答えていた。


散文(批評随筆小説等) ブルース・ブラザース、日本へゆく第一章 8 Copyright ジム・プリマス 2020-07-31 00:44:44
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