ブルース・ブラザース、日本へゆく第一章 7
ジム・プリマス

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 あれっと思って、エルウッドが気がつくと、まだ真夜中で、アパートの窓の外では煌々と月の光が、シカゴの街並みを照らしている。シカゴにしては静かな夜だ。
「まさかね。いくらなんでも、それはないだろう。」と独り言をいって、エルウッドはまた毛布に包まってねることにした。
 エルウッドが言っているのはシカゴ市鉄の動力用のトランスが収められている路地の庫庫のことで、この場所は孤児院育ちのエルウッドにとっては特別な場所だ。実は二代目ブルース・モビール、警察払い下げの74年型ダッジもここにいつも置いていた。
 エルウッドはこの場所には特別のエネルギーが働いていると子供のときから固く信じ込んでいて、この場所に車を停めておくと、そのエネルギーが車に蓄積されて、ものすごいパワーを発揮すると本気で思っている。
 実際、あの74年型のぼろダッジは、イリノイ警察とシカゴ市警察のパトカー157台に追いまくられながら、ワザパマニ湖畔のパレスホテルからシカゴへの平均時速160キロというあの伝説のデットヒートをやってのけたのだから、エルウッドの思い込みも、まんざら、眉唾とは言い切れないかもしれない。あの伝説のデットヒートはシカゴ市民の間でも、今でも語り草になっている。
 さて、エルウッドが次に目を覚ましたのは、朝の八時をまわってからだった。今日は土曜日なので仕事はお休みだ。ベットの中でエルウッドはまたぼんやりと昨夜の夢のことを考えていた。
 うーん。兄貴はトランスの下といっていたが、本当にそんなことってあるんだろうか。神の贈り物。まさか本当にあそこにいったら、ブルース・モビールが忽然と存在している。まさかそんなことはないだろう。まるで雲を掴むような話だなと、そう思いながらも、エルウッドは朝食の後の散歩をかねて、久しぶりに例の場所に行ってみることにした。


散文(批評随筆小説等) ブルース・ブラザース、日本へゆく第一章 7 Copyright ジム・プリマス 2020-07-30 00:01:09
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