ブルース・ブラザース、日本へゆく第一章 3
ジム・プリマス

 さて、いつものように九時から六時までの単調な仕事を終えて、シカゴの市電にゴトゴトゆられながら、帰宅する。
 夕食はいつもお決まりのトレーン・キッチン「シカゴ・エキスプレス」で済ませる。
 いつもみたいにカウンターに座ると、ウエイトレスのデーゥィに「コーヒーに、ダブルのドライトースト、ローストビーフ一つ。」とオーダーするんだけど、そこでエルウッドのオーダーが止まると、ボールペンを持ってオーダーを書き込んでいるデーゥィが「んん」と唸って、眉をひそめて、こちらをにらんでいる。カウンターに座っている常連たちも、おい、大丈夫かよという感じで、エルウッドの顔をうかがっている。そこで慌てて「グリーン・サラダ一つ。」とオーダーを追加すると、デーゥィの表情がもとに戻る。
 デーゥィはなかなかキュートな黒人娘で栄養師の学位をとるために大学に通いながら、夜はシカゴ・エキスプレスでパートタイムジョブをしているけど、彼女が夜の部のウェイトレスになってから、シカゴ・エキスプレスの常連たちも、オーダーするときに、それなりの神経を使わなくてはいけなくなってしまった。
 つまり常連たちが好きなものばかり、つまり偏った食事ばかりをオーダーすると、彼女はそれに習ったばかりの栄養学の講義でもって、色々、抗議をして、そして、それに最後まで抵抗していた常連たちの何人かの前で、自分の抗議が受け入れられない場合は、彼女は目から涙をこぼしながら、「あんたたちの身体を心配してやっているのに」と、マジ泣きするのである。これには抵抗を続けていた常連たち( エルウッドもそのうちの一人だったのだが。)もひとたまりもなかった。この迫真の抗議に抵抗できる人間がいるとしたら、おそらくそれは兄貴のジェイクひとりだろうなと、いつもエルウッドはそう思うのだった。


散文(批評随筆小説等) ブルース・ブラザース、日本へゆく第一章 3 Copyright ジム・プリマス 2020-07-26 01:50:17
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