3つの呪文
道草次郎

「自殺した人、地獄にいくのかな?」

深夜2時13分。サイレントモードにしてあるスマートフォンの画面が前触れなく光を発する。

ザメハ


その5秒後に、ぼくは反射的にこう返信していた。

「話しよう。ね、とりあえず話だよ」

沈黙。しばらくして返ってきたのは、

「ただ聞いてみただけ」

通話する気がないんだなって思ったからLINEに切り替える。この間のニュース絡みかな…などとあたりを付けつつ、ぼくの返事は、お世辞にも褒められたものじゃなかった。

「自殺でもなんでも、死んだらみんなきっと天国にいくと思うよ」

マホトーン


さっきより長い沈黙。
これがぼくという人間だクソっ、と内心ハラハラする。

「じゃあ地獄に落ちるというのは、自殺させないため?」

それからのやり取りは別にどうでもいいことばかり。宗教がどうやって民衆を制御してきたかとか、そういう類のつまらない話。

今夜はおやすみ言うのかなーと思ってたら、いきなり既読がつかなくなる。寝落ちでフェードアウトか。


死んだらみんな天国…。でも、でなけりゃなんて言えばいい?もし、そんなことがあっちゃ絶対いけないけど、もし万一、もしもの時は天国の事だけを考えていて欲しい…


おい、本当にぼくはどうしようもないバカ野郎だ!

絶対守れよ。
しっかり掴んで離すなよあの女のこと。
分かったらさっさと寝て
明日迎えに行け。

ラリホー




自由詩 3つの呪文 Copyright 道草次郎 2020-07-21 13:51:09
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