サムライ天国ニッポン
こたきひろし

大小の刀を二本も腰にさしていては、さぞかし歩きづらいし、走るとなったら駆けづらいだろうなって
常々感じていた

士農工商の身分制度の中でいちばんに位置していても、その暮らしぶりは窮屈で自由じゃなさそうだしさ
俺がもしあの時代に生まれていたらサムライになんてなりたくないな

もっとも俺は百姓家の次男坊だから、士農工商の上から二番目なんだよな
あの時代に生まれていたらの話だけどさ

その時代の農民はひどい暮らしをさせられていたからさ
幾ら上から二番目でもなりたくはないな

サムライから米を容赦なく年貢に取り立てられて、不作に見舞われたら餓死したって言うじゃないか

そんな時代でもやっぱり強いのは商人って奴等さ
上から四番目なのによ
結局はサムライと結託して甘い汁を吸ってやがるのさ
勿論、全部が全部じゃないだろうけどさ

結果として、一番下がてっぺんになってしまっているんだから、昔も今もその構造は変わらないんだな
腹が立つよ全く

権力とお金持ちは相性がいいから、お互い持ちつ持たれつの相思相愛になるんだろうな

「おいっ!こたき!何ボンヤリとしてるんだ。授業中だぞ、ちゃんと先生の話を聞いて黒板に書かれたものはノートに取れ!」
と俺は怒られて我にかえった

その時、丁度チャイムが鳴ったから、先生はさっさと授業の終わりを告げる
教師もサラリーマンだから無駄に時間は使いたくないに決まってるんだ

「起立 礼 着席」
の掛け声が教室内に響き渡ると、その日の授業はそれで終了した

小便を我慢していた俺は一路トイレに走った
ああサムライでなくてよかった
もし、二本の刀を腰にさしていたら間に合わなくなって漏らしてしまったに違いないのだ

トイレの小便器で用を足していたら隣にヨコヤマ先輩が後から入ってきた
先輩はいきなり俺の股間にぶら下がる一物を覗き込んできた
「何ですか先輩気持ち悪い」
と俺が思わず口にすると先輩が言った

「こたき写真を買わないか?女のあそこの写真だよ。お前見たいだろ。まだ見たことないだろう」
と言った後に、「俺は実物何度も見ているけどよ」と付け加えた
「お前は写真で我慢しておけや」となかば脅された。「五百円でいいからよ」
言われるままに、俺は写真らしき物を渡された
封筒に入ってるらしくて中身を確認しないまま強引に
学生ズボンのボケットにいれられた

学内でヨコヤマ先輩は怖れられた存在だった
その悪行はしれわたっていた
仕方なく俺は財布からなけなしの金を渡した

俺は封筒の中身を想像しながらトイレを出た
もし封筒の中身が本物だったら先輩はいったい誰の体からその写真を写し取っていたんだろう。

俺はそれを妄想し想像するだけで性的に身震いした
ヨコヤマ先輩の度が過ぎた日頃の悪い噂が果たして真実か嘘かなんてどうでもいい
事の善悪を越えた興奮が恐怖と絡み合って
強い刺激を運んで来たのだった

それは俺が十六歳
高等学校一年のある日の放課後だった


自由詩 サムライ天国ニッポン Copyright こたきひろし 2020-07-20 23:59:29
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