かいてください
木葉 揺

すみません。
ちょっとかいてもらえますか?
あ、背中じゃないんですよ。
リュックの中にノートとペンありますんで。

え?いやぁ、私はご覧のとおり、
右手に長男、左手に長女のいるベビーカーで手がふさがっています。

家で?
間に合うわけないじゃないですか。
いいから、そこのオープンカフェのテーブル借りて、
ノート広げて。
そう。

さあ、早く。
口では言いませんよ。
言葉に直せないから頼んでいるんです。
だ、だいだいだいだい、大丈夫って。
ペンを紙に当てて、浮かぶことを書いたらそれです。
私の書きたい言葉は。
あ~、よしよし。
長女が泣き出しちゃいますよ、本当にもう。そうそう、始めれば勝手に進むものです。

シュルルシュルルですって?
いいじゃないですか。
何?インクが出るか調べただけ?
いやいや、私の書きたいこと+αですね。
すばらしい。
うわ、思考がかなり疾走してきました。追いつくかしら。まあ、いいや続けてください。

ミミズ、ミミズ?
まさかカタカナで書くとは。
なになに?内容が枝分かれしましたよ。
ペンを立て直して、
とりあえず「そっち」へ進みましょうか。
あなたが思った方が「そっち」です。
自信を持って下さい。そうそう。

わ、長男の横槍。なんという融合。
やはり形に表れるべきですね。
そのときに異変が起こるんですから。
はい、かわすのも良し、受け入れるのも良し。
ノッてきましたね。
好きな、場所に、好きな、言葉を、それが、ピカッ、うわぁ、伝わってる感じがします。いいですねぇ、いいですねぇ。
もしかして昔、何か訓練してました?
文字たちのビジュアルが整って来ましたよ。
え、止まらない?
いいじゃないですか。
じゃあ任せました。
心配しなくても原案者なんていないようなもんです。
もちろんあなたのお名前で。

え?私?
これから主人の帰るまでに夕飯を作って、
子供をお風呂に入れて寝かしつけなきゃならないんで、あと頼みましたよ。

ああ、助かりました




自由詩 かいてください Copyright 木葉 揺 2020-07-20 22:28:25
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