有無を忘れる
日々野いずる

花にあふれた場所だとする
光にまみれて目がくらむ
影を大切にしたいと子供がうずくまり
おのれの下に出来た日陰に
テントウムシを見つける

冬の雪、氷が張った田んぼをおそるおそる歩く
割れる音に慌てて飛びのく
ここからうまれる軋みが
わたしに響いて脚に伝った

違う、否定した
違う違うという思いが走って走って
私を置き去りにしてふりかえらずどっか行って
かえらなければいいのに
飲み込みの悪い頭を叩く
目に見えるものじゃなければ
満足しない
いつからそうなっていたか
それらしい思い出がいくつも浮かぶ

あの日、テントウムシの飛び立ちを見送るより
ずっとうまれるのが難しかった
妹の泣き声が聞こえて
鳥が飛び立っていった
渡り鳥が落とす影を追って走って行った
妹、妹、妹

それだったら存分に泣けたか?

忘れることはなかった
影を大切にしたいって
忘れることはなかった
テントウムシに影を作り
長靴ごしの氷を感じていた頃を
忘れることはなかった

忘れなかっただけ


自由詩 有無を忘れる Copyright 日々野いずる 2020-07-20 20:32:12縦
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