ウィズ,ワンダーランド
アラガイs


 長い年月の物語から詩を興してみようとは思わない。小説家になった小木は番組の放送作家の仕事もこなしている。ドキュメンタリーとか科学とか、自然環境の番組だって資料集めを考えるとたいへんだろうな。たいしたもんだよ。その点詩とかは楽なもんだよ。事実を追いかけなくてもいいんだからね。 そんな話しをしている最中にも太陽フレアがちょっとした爆発を繰り返したらしい。AM.02.00から明け方にかけて電子機器の不具合に注意喚起を呼びかけるメッセージがスマフォに入っていた。 

物語を書き始めると詩のことなんてかまってられない。確かにそうだろうな。 ‥‥いちいち表現の解釈を説明書きに費やしていたらきりがないものね。 そう思わない? だって説明しようとした時点でその解釈は数倍にも膨れ上がってしまう。僕はそんな非論理的な形式は用いない。‥物語には個々の関係性も重要になってくる。  ‥始まりがあれば終わりもある。  ‥だから、構成作家なんて仕事も必要になってくるのさ。  ところで写真送ってくれてありがとう。 みんなに よろしく伝えて‥‥‥。眩しいパソコンの画面に眼を奪われている。顔全体が歪む小木の口元から発せられる言葉。その途切れてはまた山を越える、といった空回りに引っかかる波長が妙に他人行儀で、それがつい先日だったような気もする。

 眼が覚めるのは早かった。久しく味わったことのない熟睡感に、あたまの疲労も取れていた。 もう熱せられた海水面の蒸発を気にしなくてもいい。小人  そんな心地よい気配でテーブルのスマフォが反応していた。  ‥ほら、やっぱり入っている。あの「注意喚起」だった。 ‥そうだ!送った写真を自分はよく見ていなかった。 注意喚起といえば二人ともよく先生には怒られたな。 なんだか小木のことが脳裏に浮かんできて、同級生に送ってもらった写真。じっくりと見てみようと開いた‥‥?‥‥入っている写真の中央に大きな矢印が‥‥これは‥‥ひょっとして動画‥?‥‥違う違う、写真だよ。教室でクラスメートと一緒に写っていたはずの写真だよ‥‥
‥‥一瞬ためらったが力のない指先で画面を押してみる。‥あわわ、な、なんと画像が動き出したではないか。教室でふざけている自分とクラスメートたちがよみがえる‥‥‥あれ~かわいいね、髪なんか引っ張りあってる‥黒板の前で‥女子たちはクマさんのぬいぐるみ。みんな変装してる。学芸会の? 僕は王子。冠なんかあたまに付けて‥‥まるでお城の子供たちだよ。
*むむ、携帯もスマフォもない時代‥ましてや動画なんて撮れるわけがないのに‥‥これは、一体何の、誰かの悪戯だろうか‥‥可笑しくても笑えないのだ‥‥
     
        今日は何日の 何年の何月で 僕は生きている 消失     点
  ‥あたまでも狂ったのだろうか‥‥それとも世界が‥‥ 世の中は封鎖状態だった。新聞は雑誌は何処にいったのか。背中を引かれている。誰か、何かに‥‥小さく歪む‥メリーゴーランド‥そう思わない? ‥‥明るすぎて何も見えやしない‥‥

‥久しぶりによく晴れた朝だというのに何故か静かだった。窓の外には霧が立ちこめている。辺りがよく見えない‥‥突然再生が途切れあの「注意喚起」の点滅が‥‥ぐるりと周りを見渡してみた‥‥浮いている。   画像の中で  宙に眩しく    暗い月の上‥‥‥‥堆積される雪が 海の底に  冠る砂
          ‥‥ただよう発光尾 Orion系 橙色  ネオンは 星枕  ‥‥校庭から消えた配線‥‥眠る街の墓場、小木‥‥並木道‥‥
‥‥蒼い瞳‥‥       燃える  鴉                  鳩の葉
      ‥‥放射線  *億年と組み換えたαx:磁気振動にスマフォが笑う  部屋中の大気//電子機器から音と光が消えていた  小人  得る視線。








自由詩 ウィズ,ワンダーランド Copyright アラガイs 2020-07-01 17:56:44
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