小鬼の遠足
アラガイs


だらだらと続く小雨には細胞のいくつかをくれてやればいい。
二万年の月日を生き延びてきた若者が星の消えた真夜中にそう呟いた。
  何をしてきたのやら  といつものように振り返るのがその日の終わりを告げる日課になっている。

‥いえね‥近ごろは身体の内部から腐りはじめてきているらしくて‥‥
この頃めっきりと体力も落ちてきたよう~なんてぼろぼろの難破船に揺られながら年老いた船頭が呟いてきては吐き捨てるような声がね‥腹の底から‥特にこうして星の無い夜にひとりで向かい合ったりしますとね‥‥これからという時に若くしてあの世に逝った人たちのが顔が悩ましい微笑みを浮かべては責めるようにね‥わしのことを‥‥最近よく感じるんですわ‥それを‥なんですか生まれて間もなく息を引き取った赤ん坊だっているのにね‥‥まあ辺りを見回してみりゃあそらそうですわ‥ごらんなせえよ。知る限り人の姿をして生きている者なんてもう誰もいねえんですぜ‥‥

この長い年月だけを生き延びてきた若者には過去も未来も無かった。
‥‥あなた、やっぱり思ったとおり、立派な人に成長したのよ‥
小窓を開けて誕生日のプレゼントを渡してくれたのは幼稚園の原田先生。
       果たしてそうだろうか。
何かしらひとつでも残せればいいかなって‥‥

小雨はまだ降り止まないだろう
うしろから水をたっぷりと含んだ山道を登ろうか
二万日を生きてきた僕は明日幼稚園の遠足に同行しようと思っていた。
とぼとぼと歩幅を縮めながら‥‥









自由詩 小鬼の遠足 Copyright アラガイs 2020-06-28 02:45:36
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