マスクド
竜門勇気


僕は喋り続けた
無数の飛沫をマスクの内側に打ち付けながら
何が正しいのか
やり合うなら準備は出来てるさ
まずは何から始めよう
科学の話からにしよう
心はあとから付いてくる

効果があるのかないのか
僕を指差して言う
何の話だ?気に食わねえんだよ
気に食わねえのはどこのことだ?
ツラの話か?話し方か?
理路の打てねえ何かは寝言だと言ったことか?
あるとか、ねえとかは
お前の気持ちと相談して決めるもんじゃねー
お前の最近見たテレビ番組で決めるもんじゃねー

科学の話を持とう
未知を相手にしながら
既知を乱暴に扱うんじゃねーよ
わかりつつある断片を手にして
賢者のように振る舞うとき
何を殺そうとしているのか自覚していなきゃいけない
その自覚に漏れたものが殺すものを
いつも思っていなきゃいけないはずだ
自明と思える構造がいつだってひっくり返されてきたはずだ
でなければ無菌瓶からなぜダニは湧いた?
なぜ消化不良の肉が外部に繋がれた腸から飛び出した?

僕は喋り続ける
今正しいことが何なのかなんてわからねー
今わかったことがあるだけだ
歴史がいつまでも教科書から消えない理由は
僕らが歴史を忘れるからだ
僕らは何が起こったかを知っていても
何がそれを作ったかを知らない



自由詩 マスクド Copyright 竜門勇気 2020-06-27 23:42:28
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