遣らずの雨
あらい

空蝉が泣くような強い雨に導かれて
照り返される、夏の名残に、
逃げ出した若者たちを追いかける
蒸し返すような青い海が私の故郷とあるだろう。

もう誰の肩書きも忘れた 太古の地に芽を生やし
行く度も姿を変えてきた魂とフィラメントの憎々しい明り
生まれつきの依代はなんだってよく蛾は光に打たれ死ぬ

幾度も腐食を早める、千切れ途切れの紙幣は脱ぎ捨てられ
膝を抱えてはフラフラと身を宿してゆく蛹の夢。
実は窶ヤツれるばかりで、そのうち眠りにつかせること
聖なる夜も アホらしきかな、いくど も はて とも

汽車の中に自動販売機が列をなしている
寄生を繰り返し、棚に埋もれる土産のものの
49日後の白い肌、琥珀の蝶を求めて。

酔いも廻ろうか、シラフのままで立ち暗むありさまも同じく
差し掛かる暗闇のトンネルが明け、白に反される余波
天井に浮かぶ裸電球は黄ばんだ歯を浮かせるように、
陽気にわらっているこいつは、誰だか見当もつかない鼻歌を潜す

刺し絞めると新緑の葉を威オドし、愛は遡上を繰り返す
彩を喰らい尽くす老人の咀嚼音が、媚びについて離れない
うっかり重なり合う自分自身に吐瀉く。苦し紛れに酒を呷る

振動は緩やかに加速を静ませ、
反射する世は騒々しく空気を運んでくる。
瞬きを繰り返し、今に変えるように軽く促しては挨拶を交わし
名づければ易し 私を喚ぶもので、そうして、いつもこうして、

熱波に踊るお嬢様の軽快な身のこなしと、
改札を奔る、白シャツが、とうとう扉を開かせた。


自由詩 遣らずの雨 Copyright あらい 2020-05-28 21:48:34縦
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