海の果て
atsuchan69

波はうねりを反し、
ふたたび高く聳える
岬の灯は何処にあるのか
今や舟の傾きも波にまかせて
破れた帆布も風にまかせて

白い飛沫をかぶり、
魔獣のごとき高波は崩れ、
虚ろな眼で天穹を見上げれば
夜の終わりが微笑んで
静寂は、朱と赤に染まった

やがて暗闇の彼方に
幼い希望が訪れる
しかし、見ろ! 
鉛色の荒波はうねりを反し、
ふたたび高く聳える
あれは人を飲む妖しいうねり

轟く大波の響きに混ざって
幽かに聴こえてくるのは
呪われたセイレーンの歌声
さても哀しく、かくも美しいのだろう
朽ちかけた船べりに
細く白い腕が群がりはじめる

――朝凪の海を小舟はゆく

まだ生きていた
エメラルドブルーの鱗と鰭と、
騒めく黒い翼のある女たちを乗せて
首は革紐できつく縛られながらも
満身の力をこめて艪を漕ぎ、
男は遥かなる海の――

海の果てへと


自由詩 海の果て Copyright atsuchan69 2020-05-21 14:37:58
notebook Home 戻る  過去 未来