はじめに言葉があった
こたきひろし

言葉には
口から出る言葉と
思いや考えを文字に託す言葉
以外に

口には出せず
口には出さず
日記にも残せない
残したくない

言葉を持っている

人は生きているあいだに
死ぬときまでに
いったい幾つの言葉を声音にし
いったい幾つの言葉を胸の牢獄に閉じ込めたまま殺してしまうだろう

言葉は時に
人と人を鎖で繋ぎ
そして時には
その鎖から解放する

生まれて初めて発した言葉は
誰もが言葉にならない
言葉だった

瀬死に横たわる寝台の上で
最期に発する言葉を
果たして私は声音に出せるだろうか

その時薄れていく意識のなかで
言葉は荒野を駆け巡り
高く高く高く遥か高くへとかけ登り
そして見えなくなってしまうのだろうか

はじめに言葉があった
ように
終わりにも言葉はあるに違いなかった




自由詩 はじめに言葉があった Copyright こたきひろし 2020-05-21 00:01:37
notebook Home 戻る