忘れられた一行のために
ただのみきや

鈴は沈む 大気の蜜へ
黙したものの自重じじゅうにより

若葉に光の飛沫
     木漏れ日の揺り籠に落下する蜂

五月の河畔を夢がさまよう
  ポケットの中に全てを失くしている


新しいものはないが同じではいられない
繰り返しでも軌道はずれて往く
変えることは出来ないが変化は止められない


西の空に渦巻いている
思想の灰
数十冊分の文字が溶けた黒い雨が降る

雨後には卒塔婆が生え虫が食い荒らす
戒名は書き続けられ消され続ける


都市の水面に白い腹を浮かせた魚
あなたの長い指から
       指輪を盗む小鳥の歌声

名もなく色も形もない
そんなもののイミテーションが
           風に捲られる音


内なる真空にギュっと収縮して
       とてつもなく酸い少年は

もぎ取る前の無花果へ管を刺す眼差し
顕現しない花を想って身をよじり
         花となっては炸裂する


封印された壜に黄金の蜜
蜜の中で眠る銀の鈴

まろび続ける木漏れ日を
     探る 手の 影




                《2020年5月16日》









自由詩 忘れられた一行のために Copyright ただのみきや 2020-05-16 14:23:24
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