サーカス
メープルコート


 海風にさらされた長い髪を何かを伝える為にバッサリと切り捨てたお前。
 錆びついた時計が時を刻むことをやめた。
 煙草の煙が塊となって宙に飛んだ。
 僕は無表情で心が死んでいるようだ。

 キャンプ用に買ったナイフを取り出して、右手の人差し指をえぐってみた。
 ナイフの先がすぐ赤く染まった。
 僕にもまだ赤い血が流れているのだ。
 人の気持ちもわからないくせに。

 姉貴に言われた。
 自分を傷付けるのはやめなさい。
 自分だけじゃなく皆を不幸にするから、と。

 人の気持ちがわからない。
 滴る血を眺めながらほんの少し彼女を見上げた。
 沖の方を見ていた彼女は僕らの何を見ていたのだろうか。


自由詩 サーカス Copyright メープルコート 2020-05-15 04:21:35
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