デュカットは静かだ/即興ゴルコンダ(仮)投稿
こうだたけみ




  その背中には羽
  曇天模様の空の下
  ツバメのように飛ぶんだと

低く、ひくく

  腰をかがめてそうっと進む
  ずしりと重いのは
  右か左か誰の足


船が着いてかれこれ一時間は経っただろう。
上から下まで探したところで灯台には何も見
つかりゃしない。レイ・ブラッドベリが「音
を作ってやろう」と言った時から空想をやめ
られない。何かが詰まったままのおもちゃの
ラッパを吹くような、寝返りを打つとたまに
通る鼻炎持ちの鼻の穴のような、

 音

教会のピロティはひとたびそれをとらえると
わんわんと反響する。腕についていた毛虫を
ゴムのパチンコで弾いてくれた男の子にお礼
を言えなかったと悔やむみたいにしつこく、
しつこく。だからここではあらゆるボールを
投げるのを禁じられているのに、

                  音

肺から出た空気がどのようにして息から声に
なるのかは知らない。けれども声帯が弱まる
と誤嚥が増えそうな気がしてこわいから目に
ついた文字を手当たり次第読み上げていた。
「デュカットは怒りっぽい」とか「マッカー
サーはお祈りをしている」とか、

 音

彼らは忽然と消えたのではなく毅然として隠
れたのだとしたら。なんのために? ねえ、
後から来た灯台守たちはずっと賑やかにして
いられたのかな? 楽器を鳴らしたり手を叩
いたり足踏みをしたりして。三人しかいない
のに。三人しかいなかったのに、

         音

それは少なくともデュカットじゃないよ。
彼は、ずっと静かだ。


自由詩 デュカットは静かだ/即興ゴルコンダ(仮)投稿 Copyright こうだたけみ 2020-05-14 16:42:13
notebook Home 戻る  過去 未来