腐ったこーひー店
ふじりゅう

窓辺の白い靄に似た雨が
都の煌びやかな二酸化炭素へ憧れて
ぽつりぽつりと呟くように
私の廃墟へ響き渡る

ここは
「腐ったこーひー店」
店全体が
そろそろ偲びあるく
煙草の煙に抱かれて
私もみなと同様に
命を啜るように、コーヒーを

新聞の日付は確かに本日であるが
とても本日とは感じられない
薄汚い未来都市の情勢を
閉じると
誰一人として
何かを読んだり/聴いたり/など
せずに
五感全てを使って店内を飲み込んでいる

なるほど

カップに鈍く光る、光
の、訳をうすぼんやりと知った
腐ったこーひー店とは、
また、言いえて妙なものだ
ここに、枯山水のマニュアルがないのと同じことだ

偽物の毒をばら撒くように
マスターが店内を見渡す
いつのまにか
羽虫が寄ってたかるほど外は眩しい夕暮れ
来客たちは全てを許容するように
コーヒーの墓標へ手を合わせている

煙草を一本吸う
ちらちらと生命活動が失われる
夕闇に浮かぶ戦艦のように
翌日午前7時がほの見える
良い時間となったとのこと
一口場残ったコーヒーの黒い水面に
反射して突き刺してくる光
を飲み干す
私も手を合わせる
既に瞳の閉じられた室外の地球へ出ると
雨の亡骸だらけだ


自由詩 腐ったこーひー店 Copyright ふじりゅう 2020-05-09 15:02:52
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