もう若くない
もとこ

お酒とバカ騒ぎの魔法が色褪せ
宴の糸も解れて独りになる時刻
酔いが醒めると共に膨らんできた
得体の知れぬ不吉で黒々とした塊から
逃げるように入ったファミレスの
無機質なトイレで化粧を直せば

【もう若くない】

ずっと昔にテレビかラジオで聴いた
古い歌の断片が心臓に突き刺さる

ちょっと前までなら今ごろは誰かと
ベッドの中で同じ夢を見ていた
少なくとも同じ夢を見ているのだと
信じながら眠ることができたのに

わざと置き忘れてきたものたちって
結局はすべて背中に張りついている
ただ
見えないから誤魔化しているだけで
ずっと
そんな愚かなことの繰り返しで

それでも鏡の中にある現実から
決して目をそらすことはない
そのことだけを唯一の誇りにして
わたしは自分の内側から生まれ
少しずつ全身を包みこんでいく
懐かしい潮騒に耳を傾けてみる


自由詩 もう若くない Copyright もとこ 2020-05-07 14:13:36
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