君を視る
服部 剛

令和二年の春
コロナウイルスは世に蔓延はびこ
入院中の恩師に会えず
実家の両親に会えず
隣町の友にも会えず
一つ屋根の下、妻と幼い息子と共に
ひと日を過ごし、夕暮れる 

ついこの前まで
実家で食べたおふくろの味や
仲間と囲んだ食卓は
もはや夢のような幸いだったと
今更ながらに、私は知る 

互いの顔を合わせ、握手さえできない、今
体と体の距離は離れているが
なぜだろう
心と心の距離は近づき 
今宵、私は不思議なほど
会いたい誰かの瞳が、視える  

君よ、遠い瞳で
私を見つけてくれて、ありがとう

もうこれ以上、かけがえのない人々が
目に見えない敵に
この世から連れ去られぬよう
逝ってしまった人の命を
決して、無駄にしないよう

今こそ、心と心を結ぶえにしの糸を想いながら
部屋の中に佇み
私の今を、見つめよう
日々の素朴な暮らしを、営もう

  ステイ ホーム

の発令に、世界が覆われた季節の中で
地球という壊れかけの住家の回復を
あきらめず、夢見て

君よ、また会おう
再会の日に互いの肩を抱く瞬間を
私は待つ 

――幾重もの闇を光の矢は貫いてゆく 

今夜も、いつしか妻と息子の寝顔が並ぶ
東京都内の、ある街の静かな家で
秒針が刻む時のを、私はひとり聴いている  






自由詩 君を視る Copyright 服部 剛 2020-04-27 23:24:58
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