ゆうべの喫茶店
ふじりゅう

小雨が 都を望めぬ悲しみに暮れながら
私の五感に吸い込まれゆく
そろそろと偲び歩くような
タバコの煙に抱かれている
私は命を啜るように
一口、コーヒーを・・・・

誰が云ったか、ここは「腐ったこーひー店」
高い料金を支払い
なお、、、腐ったコーヒーを啜りに来る彼等は
目に見えるもの全てを許容するように
暮れなずむ太陽の墓を眺む
「枯山水のマニュアルは
ここに持ってきてはいけない」

鈍い足音で店内を徘徊するマスター

ミルクも砂糖も存在しないテーブル
・・・・灰が、ぽろり、砕けて崩れる
・・・・しなやかな足を空想する
・・・・

急ぎ足で誰かの傘を
抜き取り消える男
雨は彼に寄り添い また迷う
煙に巻かれる私へ尋ねごとを繰り返し
五感がむしり取られる
たぶん、何一つ判らない生涯が善人を縁取る
カップに鈍く光る光は、だれの光でもなく
眩しすぎて
私は既に太ももまでをも失った

小雨はひとしきり吸い込まれたようだ
常に不敵なマスターの舌には
砂糖もミルクも存在しない
最期の一滴までコーヒーを啜りこむ
それが「腐ったこーひー店」のしきたりらしい


自由詩 ゆうべの喫茶店 Copyright ふじりゅう 2020-04-26 23:37:38
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