ケルベロス
紀ノ川つかさ

君がこの地獄から抜け出るには
あの番犬の目を欺かねばならない
番犬ケルベロスには三つの首があり
どれに噛まれてもおしまいだ
君は地獄の一員となり
周囲に恐怖を撒き散らす

一つ目の首は
口から強権力の呪いを吐く
蔓延する病を恐れ
人々が家でじっとしている中
そんなもの関係ないさと
鼻で笑って外を出歩き病にかかる
そんな連中に言うことを聞かせるには
行動制限 拘束 厳罰 暴力装置
そんな強制力が必要で
そのために今この国の憲法を
大きく変える必要があるだろう
この国を守るために
自由には限度があることを知るべきだ

二つ目の首は
口から同調圧力の呪いを吐く
人々を家から出したくなければ
相互監視が一番だ
大切な命を守るために
今は皆で歩調を合わせる時だ
合わせない不届き者がいれば
とりあえずは説得しよう
しかし言うことを聞かないなら
そいつに指を突きつけ
社会から締め出してやれ
さらし者にして罵ってやれ
生活力を奪ってやれ
強権力など必要ない
人々の力は弱くはない
この国は皆でなんとかできる

三つ目の首は
口から洗脳の呪いを吐く
強権力も同調圧力も
息苦しいね生きている感じがしない
そんな時は朝から晩まで
外は恐ろしい世界だという情報だけを
繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し
ただ与え続ければいい
そうすれば人はそのように染まる
それに合わせた行動しかしなくなる
あとはそいつの自由さ
好きなように生きればいい
幸せを感じる日だってあるだろう
さあ今すぐ余計な情報は全て遮断し
頭の中を今の時代に合わせて
作り変えようではないか

さてこの三つの首から
無事に逃げられるかな?
ケルベロスは手強いぞ
ほとんどの者は三つ首のうちの
どれかに噛まれ
まだ地獄で騒いでいる
いや大丈夫もし噛まれたって
別に痛くはない
それどころか
噛まれたことにも気がつかず
自分はたいそう優れた人間だと
胸を張って生きている奴も
少なからずいるってわけさ


自由詩 ケルベロス Copyright 紀ノ川つかさ 2020-04-26 09:45:14
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