静けさの残り音
かんな


窓ぎわの一輪挿しに
雲の合間から洩れた光があたる
人の群れの片隅に
置かれたままの孤独には
今にも途切れそうな蛍光灯の橙色が
仄かにあたっている

本棚の蔵書の間に
あなたに書いた手紙が挟まっている
記憶も感情もいつしか
紙のように褪せていくことを
わたしの人生が証明していく
命は儚い
生きることは容易ではない

まっすぐに
見据えた瞳の奥に
あなたは深い悲しみを密かに飼っていた
人は並んで歩いていても
同じ場所に向かうとは限らない

花びらが音も立てずに床に
ひらりと落ちていく
静けさはしん、と音を立て
それはあまりにも悲しみの音と似すぎている
わたしは本を手に取って手紙を見つけると
パタンとわざとらしく音を立て
元に戻した


自由詩 静けさの残り音 Copyright かんな 2020-04-23 10:00:53
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