濁流によって朝は足止めされてる
ホロウ・シカエルボク


壁に残された二年前の嘘
ストラヴィンスキーの神経症的な後味
朝食のベーコンの油のにおいが
因縁みたいに食卓にしがみついてる

ラジオ・プログラムは元気が出る歌とかそんなものばかりで
驚くほど安直に魂をカテゴライズする
悲劇も結局は多数決の時代さ
人知れず死んでいくやつらの命も同じ重さなのに

ミクスチャー・テクノ・ロックの甘く気怠い歌声
近頃は生理用品みたいな
変らない肌触りのような歌唱が流行りらしい
まったく、血塗れにしてやりたくなる

雨が狂っている
我儘な女のようだ
聞き流すしか手がない
コーヒーは残り少ない

インターネットじゃ断罪以外の手段を持たない正義が
鏡のない正義が獲物を探してる
同調、同調、同調、同調
アメーバのように増えてくるやつら

思考を持たない連中の言葉は大差なくなる

電気をすべて消して
巨大な蝋燭に火を灯す
「神が蝋燭の火を吹き消す」というイメージは
きっと嵐の夜に生まれたに違いない

本当に送りたい言葉は
現在は使われていないアドレスに飲み込まれる
海に投げ込まれる指輪のように
灰皿で燃やされる大きめの写真みたいに

足りないことを知るための時間を
必要以上に買い込んで終わりにすることは愚行だ
どうしてそんなものが与えられたのか
隙間を見つめることは大切なことなのに

ねえ、ギャラリー
きみたちは戦争を繰り返すだろう
死にたくないなら殺すしかない
きみたちの正義は死にたくないがためのものさ

まったく、かたっぱしから…

おっと
やつあたりは、よくないね
俺はひとりだけれど
あの子はどうだろう

ポールマッカートニーが真夜中の歌をうたいはじめた
そうだよ、寝る時間だ
悪い夢は見ない
たぶん、いまほどには


自由詩 濁流によって朝は足止めされてる Copyright ホロウ・シカエルボク 2020-04-20 00:29:36
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