明滅
たもつ

お言葉ですが、と言った男
確かに言葉に違いない
うまく喋る
来年の言葉も昨年のように喋る
言葉は耳で聞くものではなく目で見るもの
肉体だからね、目で見る
 山下君、山下君だったね
 はい、山下です、お言葉ですが
細い首にネクタイが結ばれて歪んでいる
肉でも体でもないのに
自分自身であるかのように直す
山下君は街を歩く肉体のひとつ
街には縦に川が流れ
丹念に探せば階段もある
生きているものしか上り下りできないから
山下君、今日は
どれだけ上り下りしてきたのだろう
 階段ですね、お言葉ですが
うまく喋る
三日後の階段について喋る
肉体への愛が見てとれる
愛は一人で支えるもの
誰もが一度はそう思う
明滅する魂たちの遊び
おそらく魂は肉体に甘え過ぎでしまった
すべては夜になる
親戚のように世界は寡黙になり
山下君の夜のお言葉だけが続く



自由詩 明滅 Copyright たもつ 2020-04-02 22:17:59縦
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