夏が来る前に
Lucy

街路樹の根元に
延々と連なるラベンダー
夏になったら咲くのだろう
この街に 夏が来るのなら

誰と誰が生きのびて
新しい詩を書くだろう

マスクをつけて歩いていると
先生が電話してきた
元気か、いやどこにも行くところなくてよぅ
まいってる
寂しくて懐かしくて
おまえの声が聞きたくてなぁ 
五月になったら飲み会かねて食事に行かないか?

三年前に娘さんを亡くし
奥様は以来病がちという噂
俺は元気だどこも悪くない夜毎薄野で飲み歩いていると
クラス会で豪語していた
昔ながらのハイテンションがどこか不自然で

先生は私を誰と間違えているのだろう
重いので
電話にでなかったこともある

でも今日は出てしまった
ごぶさたしています先生おかわりありませんか?と
ことさら明るい声をだす
そうですね、五月になったらまた皆で会いましょう
それまでに出掛けられるようになるといいですね

そうだな、おまえの声が聞けて嬉しかったよ
それじゃまた五月に電話していいかと先生はいう
はいありがとうございます先生もどうかおからだ大切に
心にもない言葉を言って電話をきる

雪が消えた中央分離帯に
ホコリまみれのラベンダーがどこまでも続く
来るかもわからない夏をめざして
 




自由詩 夏が来る前に Copyright Lucy 2020-04-02 21:18:38縦
notebook Home 戻る  過去 未来