日向
たもつ

 
 
電柱を数えていると
母にはしたないと叱られた
数える以外、電柱の用途など知らないから
何で、と聞いてしまった
何で、と二回聞いてしまった
風景の端っこを小型犬を連れて婦人が横切る
すべては日向で起こっている
こんにちは、いらっしゃいませ
日向の挨拶としてはありふれているが
遺書でこれを書いた人はどのような心だったか

 質問があれば書面にて
 という事務連絡が母から渡される
 何で、と書いてしまった
 何で、と二回書いてしまった
 今現在までこのことについて
 母からの書面による回答はない

母が電柱を片付けていく
電柱を抜く
線のようなものを巻き取る
トラック、来てください(大きい声で)(小さい声で)
回収業者を呼ぶ
風景の端っこを小型犬を連れて婦人が横切る
母は日向でこのようなことをする人ではなかった
何で、と思って
何で、と数回思って
聞きたいことが増えていく
次々と書面も増えていく
日向では紙に困らないのだ
飲む水にも困らないのだ
風景の端っこを小型犬を連れて婦人が横切る
何度目の婦人になったのですか
そのことも漏れずに書く
水も併せて飲む
酸素が安いわね
優しい値段だね
母と業者が話し込んでいる

 最後に一番聞きたかったことを書く
 「私の名前は何ですか」
 このことについても今現在のところ
 母からの書面による回答はない

こんにちは、いらっしゃいませ
日向で提出した書面は
無記名のまま綴られる
遺書に他ならなかった
 
 


自由詩 日向 Copyright たもつ 2020-03-25 20:58:13
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