白い炎
為平 澪

年末の庭に放置された大量の菊が
霜が降りる毎に人を誘う手をみせる

いつか燃やさなければ片付かないね、と
そればかり気にしていた母の、
指の第一関節はガンジキのように折れ曲がり
小さく縮んだ菊の亡骸を集めていた

仏壇の裏のセイタカアワダチソウが
鈍色の曇り空にトゲトゲしく突き刺さり
誰かの長い白髪のような枯草は
横倒しに倒れたまま土を覆い隠している

簡単に抜ける
色褪せたそれらのものを集めて鎌で束ねては
焼き場まで持っていく
母はその薄暗いものたちを上手に重ね合わせ
端が折れて黄ばんだ新聞紙を細長く丸めると
マッチを擦る

底に火を置かれたものたちが燻る焔をあげ
小さな骨が何度も折られる音が続き
やがて火は燃え広がっていく

いつか燃やしてしまわなければ…、と
自分に言い聞かせるように母が呟いた後、
あっという間に燃えてしまうものですね、
街から来たという男が古い家を背にして
正直に言う

玄関に注連縄のついたお飾りを吊るすと
そこから
母が入り、娘が入り、猫が入る

今年が無事だったことなど気にも留めず
暮れた寒村には消防団の夜回りの鐘が
夜の中で鳴り渡る


自由詩 白い炎 Copyright 為平 澪 2020-03-22 17:09:27
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