ボール
まーつん

 僕は歳をとった。

 もちろん生きとし生けるものすべては、常に老いているわけだけれど、ある時から、肉体はそれ以上成長することをやめ、ゆっくりと衰え始める。空に放ったボールが高く高くあがりながら、やがてゆっくりと天に向けた加速をやめ、束の間静止し、再び地面へと還っていくように。その飛距離は生きた時間に比例し、生まれて間もなく死ぬ者もいれば、百の齢を重ねてなお生きる者もいる。どちらが幸せであるにせよ、時は優しく、そして残酷だ。

 ボールが再び投げた者の手元へ帰ってくるかどうかはわからない。そもそも、ボールを投げた者は誰だろう。神様?  高みに至ったのは、肉体だけではなく、心もまた。喜びであれ、悲しみであれ、空色の壁紙を背にして、束の間静止するとき、人生という舞台で、私たちという存在は肉体的にも、感情的にも、何らかのピークを迎える。そういう瞬間が、誰の人生にもあるのかもしれない。

 天使が投げたボールを悪魔がキャッチしたら?
その人生は喜びから悲しみへと、充実から虚しさへと、白から黒へと移り変わる色彩のグラデーションを帯びながら、夕暮れ時、ゆっくりと山の峰の向こうへと弧を描いて飛んでいくのだろうか。炎のように高揚する朱色、孤独に沈みゆく青、様々な色に染まりながら遠ざかっていくボール。

 そんな風に、人生の、いや、一つの命の行く末の比喩として考えると、ボールというのは面白い。連想はどこまでも広がる。今僕の脳裏に思い浮かんだのは野球のボールだ。うっかり者の外野手が摂り損ねたゴロのボール。

 どこに転がっていくのだろう?
 まるで僕の人生みたいだ。


散文(批評随筆小説等) ボール Copyright まーつん 2020-03-22 10:07:13
notebook Home 戻る  過去 未来