感謝しない心
こたきひろし

十三歳
中学生でした

担任の男性教師は怖い先生でした
柔道部の顧問をしていて有段者でした

先生の口癖は
人間は感情の生き物だ
でした

その言葉が出ると
クラスの中の誰かが頬を平手で打たれました

さすがにそれは男子生徒に限られてましたが
ビンタする前に先生は必ず言いました
直立不動になれ
歯を食いしばれ

可能なら両手で耳を塞げ
とも

反抗心剥き出しの生徒は
先生を睨みつけました
さすがに暴力による抵抗はしませんでした

先生は猛者で
柔道の有段者でしたから

叩かれると生徒の体はよろめきました
反抗心剥き出しの生徒は
それでも姿勢を元に戻して
先生を睨みつけました
もう一発が反対側に見舞われるからです

クラスには悪いのが何人かいました
正義感剥き出しの先生は
そいつらを許しませんでした

先生がいる限り
教室内は平和でした

平和とは力によって制圧される結果でした

そんな先生は
弱い者にはやさしい人でした

私は弱者でした
弱者であるがゆえに
先生の鉄拳制裁から逃れる事が出来ました

だけど
私はいつも先生から見下されているような
思いを拭いされませんでした

弱い者が強い者の
庇護を受ける構図を呪っていました

私は大崎君に憧れてました
彼は悪ぶっているだけで
本当はやさしいクラスメートでした

私は大崎君の家庭の事情も知ってました
なのに情け容赦なく
大崎君はよく先生から
往復ビンタされてました

その光景を目前にさせられる
弱者の心に
果たして先生の眼は向けられていたとは思えません

何が正しくて
何が間違っているかなんて

受け止める側の
主観でしかないのに


自由詩 感謝しない心 Copyright こたきひろし 2020-03-22 08:42:46
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