生活
たもつ

 
 
とり急ぎ、という言葉を初めて聞いたとき
鳥も急ぐのだと思った
正確に言うと
へえ、鳥も急ぐんだ、と思った
それはユウコの初めての言葉だった
今思えばあの頃
鳥は皆、急いでいたような気もする
まだ急いでいるものなのだろうか

ユウコは青白い顔色で
都会が良く似合った
生きる音がしていた
指は幾度となく紙をなぞり
影は指と紙との境目をつくり
指を辿れば
そこにはいつもユウコがいたのだった
ここは立地が良い、悪い、というのが好きで
とりあえず、という珍妙な言葉を
生まれて初めて聞いたのもユウコからだった

鳥は会えないのか、和えないのか
そこのところはわからなかったけれど
ユウコの言葉の中で鳥は鳥として生きた
ユウコにはユウコの十年があった
ユウコとの十年があった
たとえ息を吐くだけでも
それは生活でよかった

 


自由詩 生活 Copyright たもつ 2020-03-20 10:08:53縦
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