恋人たち
うみ

外国の唄がながれた
ノース・マリン・ドライヴ
それは海沿いの道で
ぼくたちが車にのって
風を感じる午後のこと

永遠が存在すると いうように
太陽のひかりはまぶしく 淡く
ぼくたちは
黒いおおきな目をした長毛種の犬のように
まぶたをとじて風を浴びていた
それはあまいたそがれのとき
蜂蜜色にかがやく
瞑目の静けさがあふれるとき
いのちの意味もしらない
おろかなぼくたちが
なぜだか神さまのたべものを
たらふくにたべられるとき
そして世界は静止していて
どこかの団地の畳の上では
だれかが足をなげだして
眠りこけているとき

ぼくときみのあいだの
ひと呼吸分の静けさと
愛をかたるべくもないほどの
ちいさなほほえみは
空を行き交う電波よりもすばやく
ブラジルでキスをする
恋人たちのところに届いている
ぼくたちは愛が素粒子だと
そして波だと いまではもう知っている
どんな科学者よりも賢明に

(かもめが鳴いている
それはぼくたちと同じ沈黙とすこしのかなしみのため
いずれ見えなくなるコンビナートの蜃気楼のため)

窓枠にもたれたきみの横顔が
空をよこぎるにじいろの夕暮れに染まり
死んだようにあおざめてゆく
外国の男がうたうのをやめ
ぼくらはまた話しはじめる
これからどこへゆこうかと
あたらしいあやまちを重ねはじめる
けれどこの海のむこうがわでは今も
小麦色の肌の恋人たちが愛し合っている


自由詩 恋人たち Copyright うみ 2020-03-14 21:23:54
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