抒情
メープルコート


 雨降りの休日に訪れた西洋館。
 静かな音楽が流れ、時が緩やかに過ぎてゆく。
 思い出すのは祖父の家。
 誰もいない応接間に幼い僕がいる。

 飾り棚に美しい酒瓶、アンティークドール、日本人形。
 年月が染みついた匂い。庭が見える。
 ちょこちょこ顔を出す祖母ももういない。
 時の鐘が無表情に響く。

 いつまでも子供でいたかった。
 人生に悲しみが降り積もる。
 いつの日か僕も消えて無くなるのだろう。

 床が軋む西洋館で僕は雨を見ている。
 そろそろ歩き出そうか。
 小さな思い出を残して。


自由詩 抒情 Copyright メープルコート 2020-03-14 03:04:20
notebook Home 戻る