夏のお客様
たもつ


お客様が来て壊れた扇風機の話をする
いつから動かない、とか
動かないから涼しくない、とか
壊れるようなことはしていない、とか
その間にもお客様は松月堂のケーキを食べ
美味しい珈琲ですね、などと感想を述べ
そういうことは電気屋か
家電量販店で言って欲しい
少なくともここは民家だし
ローンだってきちんと数えれば
あと十七年と三か月残ってるし
そもそもお客様は左手を包帯で吊っているのに
そのことにはまったく触れずに
ひだ、と言った途端、ところでと
また壊れた扇風機の話を続ける
壊れているのはお客様も同じなのに
おかしいと思う
聞いた話を総合的に検証すると
扇風機を旅に連れて行きたいらしい
電源を探すのが大変そうだけれど
延長コードがあれば人はどこまでも行ける
そうやって人は生きてきて
これからも生きていく
話が終わったのだろうか
終わったような雰囲気で
お客様が帰っていく
そういえば
今日が夏の最終日だ



自由詩 夏のお客様 Copyright たもつ 2020-03-04 18:12:21
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