レモンサワー
石村

(*昨年書いて現フォに投稿せず忘れていたもの。アーカイブ目的で投稿。石村)




しつこい梅雨が明け
夏がはじまつた
はず であるのだが
ひさびさに傘を持たずに
散歩なんぞに出てみると
夏初日にして
早々にくたばつたクマゼミが
ぶざまに腹を出して
舗道のうへにころがつてゐる

いやなんとも
気のはやいことだ
ながい地下暮らしから這ひ出して
この大雨続きの数日間
どれほど鳴いたかしらないが
お前さんのいつしん不乱な大音声が
いつたいどこの
誰にとどいたものか

俺もまあ 言へた義理では
なからうよ
誰に読まれもせず
おもしろくもおかしくもなく
清くも正しくも美しくもない
いまどきはやらぬ詩もどきを
書き続けたあげく いつかくたばり
ぶざまに腹を出して
その辺に ころがつてゐる
ことになるんだ


それがどうした
くだらない
いつぱいやつて気を晴らさう
レモンサワーください
もう夏だからね
さはやかに行かうや
とまあ いつもの嘘だ
毎分毎秒 毎年毎月
こんなこといつまで
続けるんだらうね

神はもうゐない
といふことにして
いけしやあしやあと
生きてゐるつもりになつても
背負ひ込んだ業のふかさは
どこまでも肩に
くひ込んでくる

来世の永遠も
諸行無常も
ひとのいい気な妄想にすぎない
それでもわれら
ことばといふ罪を負つた者どもは
なにかしら 書かずには
ゐられない から
書く のだ

愚か者め と空がいふ
わかつてゐるさ
わかつちやゐないよ
俺もきみらも

だからこのレモンサワーの
泡がはじけて消える
その一刹那に
真のしんじつをかんじたまへ

それからもう一度
まぶしくひかる空を見上げて
耳をすませてみるがいい

ほら やつぱり空がいふ
愚か者め と空がいふ

書き続けろ と
空がいふ






自由詩 レモンサワー Copyright 石村 2020-03-03 22:32:48
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