旅の震源
非在の虹

狡猾なる者、悲鳴の中で飢えて、
目くるめく暗黒の音韻の中で、
彼らのための晩餐を支度する。
パンという名の単純な個体と
葡萄酒という結果としての液体。
泡立つのは、抑えきれぬ羨望に満ちた旅の日々だ。
何のために、何のために旅。
日課として体を洗うという、目的の無い行為
という底なし沼のような思想(又しても嘲笑だ)
「おまえを捜す旅だった」
と、傍らのこまどりが囀る。
血、小鳥の血が微かにささやいたのだった。
何処へ行く、何処へ行くのだ。
旅という言葉に
旅の終わりという静謐が隠れ、
旅の始まりという排泄が震える。
唐土も南蛮も喉の奥へ落ち込んだ今、
火を焚いて、火の色を見てうらなう
行き先について、行く先に待つ殺人者に
殺される瞬間を夢見て。


自由詩 旅の震源 Copyright 非在の虹 2020-02-20 21:56:39
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