星染

もう長くない、もう息が続かない、間違えた星に生まれて私たち がんばってきたね もういい、もういいから、もういいからって首筋に両手をあてがいあって笑ってた 死ねない、死なない、そうさせてくれるのはこの季節のおかげで、ねえ私たち本当はこうなるつもりじゃなかったって知ってるよ 星が多すぎて吐いたこと 花束に顔を埋めて泣いたこと 死んだらどこに行くんですか、あなたです、あなたのお腹のなかに、宿るのです 戻るのです ああ、気持ち悪くて吐きそう 私のことなんかしらないこの季節が、透き通っていすぎて何もかも見えない、この季節には私だけしか、見えない、それが愛しくて悲しくて嬉しくてだめだ
マグカップであたたかいコーヒーを飲むあいだ、なにもかも不安定だと思う、筋力がなくなって、重力がなくなって、そうしたら私の体もばらばらになるという点で、私とコーヒーにはなんの違いもない 愛にできることはもうないのに、世界は愛が全てで、つまりは無重力だった 貧血で倒れたね 心配だった、きみのこと、君の立つ地面が君を、欲しがっていた。飲み込まれる、いつかは君も私もあいつも、土に飲み込まれて腐った肉の塊になる わかってる、だから星になれるなんて嘘をついたんだ私たち、私たちは本当は、星の子供になりたかった 同じように光って死ねたら、冷たい肉塊にならずにすんだ きみの背中に翼が生えたこと ひどい悪夢だ グロテスクだった 痛いと泣いていた とても飛べない翼を抱いて、軋む背中が語っていた 私たちは結局どこにも行けなかった、上にも下にも、だから抱き合うのかな、私たちは可哀想どうしでしか愛し合えないのかな、かなしいね、さみしいね、でも、
でも愛は、
残された月の欠片が泣いている、夜に、冷たい風だけが友達だった、冬、冬だけが私を見ていてくれた、メリーゴーランドの残光 夢なんかないよ 恋なんてないよ 幻想だ 綺麗だと言われるものなにもかも、嘘っぱちで、だからばれないように私たちは、キスをする、手を繋ぐ 事実でしか証明できないもの、崩れたと思えば崩れるもの、初めからなかったと思えばなかったことにできるもの、恋は世界で一番脆い信用だ さようなら、君のことが好きでした、そう言ってバツを、罰、偶然出会ったふたりはそのとき、罰されて死ぬの 何も残さないね 残らないね 覗き込んだきみの瞳の色だけ、それでも思い出せるから、きみはきっと、恋以上の果実だったんだな、大きく育って腐り落ちそうな、感情が大きな名前をもって私を蝕んでいく 食べられていく メリーゴーランドの残光、メリーゴーランドの残光、遊園地は潰れたんだよ、目を覚ましてよ、燃えていた、赤い光を吐き出しながら燃えていた、二人で見ていたこと、海の向こうの遊園地、メリーゴーランドの残光……
私が笑って、きみがわらう、そのたびごとに少しずつ生活が罅割れて、その間に雪が積もってゆく しんしんと しんしんと私たちの生活に、蓄積する雪は真っ白で、白、じつは純真などではない色、光のすべてを混ぜ合わせてできる、濁った色に、わたしたちは無垢と名前をつけた そんなものはどこにもないのに
いま、その罅に手を差し込んで、せーので開けよう。身を守るだけの世界はいらない、間違えた星は塗り替えればいい、みんな死ね、死んで生まれ変われ、一番なりたかったものにみんながなって、それで世界がおわるなら、何がだめなんだろう 夢が叶うとき 罅は罅でなくなる 大きな一つの死神へと姿を変え 私たちを迎えに、澄み渡った夜空をひとつひとつ、潰しながら歩いてくるのだ、それを、ふたりで灯台の高い窓から見たい 美しい景色だ、それをいつか、楽園と呼び、手を取り合って落ちるのだ!


自由詩Copyright 星染 2020-02-10 10:02:37
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