夏の国
アラガイs


その昔夏の国からおちのびてきた春秋という餓鬼がいて
たちの悪いことにこの春秋という餓鬼は年老いても一向に死ぬ気配もない
今日も村人が集まる座敷に派手な女人を幾人も侍らせては酔い酒に戯れている
餓鬼とはいえやはり鋭い角のある鬼にはいちゃもんをつける輩は誰もいない
そこに冬将という新しく村にやって来た若者が餓鬼の様をみて筆をとる
口述噺には必ず英雄の伝説がある
(わたしは冬将という流れ者、あなたは何故それほど生き続けていられるのか。わたしならばこんな乱れた世にあって、それほど長く生き続けたいとは思いません。)冬将
木片を手にすると、春秋は酔い痴れながらも眉間を吊り上げ天を仰ぎ口を突き出して叫んだ。
(我がいた夏の国の王は人々の脳を好んで食している。夏の国の者たちの脳はそれほど美味なのだ。鬼神天主様とて文句は云えまい。夏の者たちは皆二十年であの世に昇るのだ。後の世の地獄の栄華も群がる僧たちの因襲をみることもない
我はそんな国に仕えるのが厭になった。
そして峠を越えたこの地で鬼を棄て、あの夏という王国の末路を見届けてやりたくなったのだ。この躰が~)
酔うままに書面の応答を言いかけた
その最後の噺が未完に終わったことは言うまでもない
冬将は脇腹に隠し持っていた刀で春秋の頸を切り取った。
割れ竹に墨
同じく楮の樹液が散る
一瞬の速さはものの見事さにある。






自由詩 夏の国 Copyright アラガイs 2020-02-08 01:26:50
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