昭和三十八年、ある街の光景
ひだかたけし
軍服を着た義手の乞食、
商店街の一隅に座り
通り掛かった幼児の眼差しに
モノクロームの世界を投げ掛ける
義手は銀色、楕円の大きな豆を繋げた様
アコーディオンが哀しげなメロディーを奏で
ぴんと背筋を伸ばした乞食軍人は
ときおり頭を深々と下げる
頬には大きな裂傷走り
その様を見入っていた幼児は
突然母親に手を引かれ
モノクロームの世界から引き摺り出される
街は年末の人混みでごった返し
軍服の乞食の姿はあっというまに視界から消えてしまう
幼児は街の喧騒に呑まれていく
何か酷い後ろめたさを抱えながら
否応なしに呑まれていく
自由詩
昭和三十八年、ある街の光景
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ひだかたけし
2020-02-02 20:25:33
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