トウモロコシの覚悟
ブルース瀬戸内

トウモロコシに憧れたので
トウモロコシになりました

さらりとそう語れたのなら
カッコいいかもしれません

でもそういうわけではなく
トウモロコシに生まれ育ち
トウモロコシになりました

簡単に半生を語ってますが
それなりに苦労はしました

まずはトウモロコシとして
認めてもらえないわけです
植物学上のモロコシ程度で
認めてもらえないわけです
精神的なモロコシがないと
認めてもらえないわけです
存在も脅かされるほどです

おまえは半モロコシ前だと
父モロコシや兄モロコシに
指導という名の説教を浴び
泣きモロコシにもなります

そんなヒゲは百年早いとか
えげつなく言われるんです
植物学上伸びてくるんです
どうしたって伸び伸びです

でも僕は早くなりたかった
立派な一人前のモロコシに
一早くなりたかったんです

涙で滲んだ銀河を見上げて
ぎゅっと隠しヒゲを握って
すぐにモロコすんだからな
明日にもモロコしてやるぞ
そう固く誓ったものでした

あれから7年が経ちました
僕は遂に立派なモロコシに
成長することができました
隆々たる粒々をたずさえて
ゴールデンな輝きをまとい
自信に裏打ちされたヒゲを
たっぷりとしっかりと蓄え
モロコシ畑に君臨できると
自負だってしているんです

弟子モロコシには抜かれて
孫弟子モロコシに養われて
ダメモロコシみたいですが
モロコシの極意は会得して
忘れたらまた会得し直して
現状は忘れているとこです
それでも輝きはゴールデン
蓄えたヒゲはデンジャラス

父モロコシに言われました
そのヒゲを待っていたのさ

兄モロコシに言われました
モロコすにもほどがあるぞ

血こそ繋がっていませんが
粒と粒とで繋がっています

今はモロコシ畑の夕焼けを
風に吹かれて歩いています
銀河もじきに見えてきます

お祭りの仕事を頼まれるも
まずは断ったわけなんです
このゴールデンは屋台では
持て余してしまうからです
包み隠さず言ってしまえば
食べられたくないからです

じゃ僕が祭りに行きますね
孫弟子モロコシが言うので
そんなことをされたならば
誰が僕を養うのかと思って
いやいやそれなら僕が行く

いやいや師匠が出るなんて

いやいやそこは僕が行くよ

いやいや師匠は怖がりだし

いや別に何も怖くないから
何も怖くない自分が怖いよ

じゃあ師匠がどうぞどうぞ

モロコシ畑の夕焼けと風が
粒に沁みます心に沁みます

じゃあ師匠がどうぞどうぞ
孫弟子の言葉を反芻します

祭囃子が聞こえてきました
やっぱ次の祭にしようかな


自由詩 トウモロコシの覚悟 Copyright ブルース瀬戸内 2020-01-31 08:46:30
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