ひとつ つまびく
木立 悟





わたしの先を歩むかたち
わたしのかたちの穴を飛び越え
ふたつの機械の音は重なり
小さく小さく泳ぎはじめる


蜘蛛の巣と栗鼠
やわらかな時間を
ゆうるりと降りる
冬が冬であるうちに


ふたつの前衛劇の合間に
ふたつの輝く海があった
輝きをついばむ鳥があり
輝きを埋める鳥があった


木の爪は割れ 割れつづけ
火の夜径 ただ咬みしめて
砕けた針 よみがえり
短い夢を縫い合わせる


わたしのなかのけだものの笛
闇の闇化を止めることなく
まわり なぞり
こすりつづける




たくさんの演奏家を集めて
何日もかけて録音した
ある日すべての音を出せる機械ができて
音楽はひとりひとりの頭の内に行ってしまった
やがて機械が棄てられた後も
演奏家たちが戻ることはなかった





此処が器のたどり着いた地
此処が響きの終わりの地
倒れつづけるかたちたちが
再び立ち上がり歩み去る浜辺


途切れ途切れの銀の螺旋が
わたしの指から飛び立つと
外は決まって雨になり
わたしのかたちをゆらめかせてゆく



 
















自由詩 ひとつ つまびく Copyright 木立 悟 2020-01-28 21:02:20縦
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