僕たちはすべて水際(みぎわ)にいる
朧月夜
くるくると空が流転する。
葉がさざめく。
海の底を人魚が泳いでいく。
悲しみは積り、積り、
切なさで、
わたしはそれを胡麻化している。
あなたたちも同じでしょう?
細やかなことができなくて、
泣いている。
ここが墓場だったら、
それならば良いのに。
その声は神に届くというのに。
ありふれた日常、
交互に点滅する信号、
それらを無視して道路をわたる。
冬には雨が降るという。
この国の四季は失われて、
久しい、久しく。
どこにも届かない言葉、
気まぐれに届く郵便。
それは海の向こうからの報せ。
ここへ来なよ。
どこへ行くの?
ここというのはここさ。
誰もが晦冥のなかで、
ひっそりと思いを隠している。
水底の魚のように。
ためらいがあるのであれば、
いっそのこと放り出してしまえば良い。
あなたたちも同じでしょう?
涙が水晶のように、
深い谷へと落ちていった。
その行く末を高いところから見守る。
世紀末はとうに過ぎたのに、
歴史家はあらたに、
歴史を作り出そうとする。
ありきたりの言葉で、
優しく慰めてほしいと、
羊たちは寡黙に草を食んでいる。
わたしたちは、
行く宛もない羊飼い、
ただ鈴が鳴るのに耳を澄ませている。
空がもしも落ちてくれば、
希望で満たされるのか、
確かめることもなく。
空と海とは流転する、
それを輪廻とは言わず、
ただ見守るしかない。
あなたは泣いていなかった?
あなたは泣いていたでしょう?
わたしもそれを忘れずにいるのです。
言葉や音楽では満たされず、
ただ日常をやりきれない思いで、
やり過ごしている。
星は見えたのでしょうか。
その星に届いたのでしょうか。
その春風のような笑みは……
久遠のかなたに去って。
いつしかすれ違っていたことにも、
気づかずに。
良い気になっていましたね。
悲しみという快楽に、
飲み込まれたままで。
憂鬱な季節はやがて去って、
春という優しさがやってくる。
その時までは、その時まではと。
歌を歌いながら、
待ちましょう、
待つのでしょう、わたしたちは。
誰にも看取られることなく、
他者に褒めたたえられることもなく、
ただ淡々と。淡々と。